ほんの写真「読書感想 鹿の王 もう私の理想の男性は欠け角のヴァン!」

上橋菜穂子さんの大ファンの私です。先日デビュー作の精霊の木を読んだばかりですが、ついに読みました、鹿の王!

1年〜2年くらい前に買ってはいたんです。買っては。でも仕事しているときはとても読む余裕がなかったんです。精霊の木を読んで一気に上橋ワールドモードになった私。今更ではありますが、一気に読了しました(≧∀≦)

……幸せでした〜

読書感想 『鹿の王』

主人公は、妻と幼い息子を病で失い、死に場所を求めて志願する戦士団「独角(どっかく)」の頭だったヴァン。戦いで捉えられ、奴隷として岩塩鉱に囚われている場面から物語は始まります。もって3ヶ月と言われている過酷な岩塩鉱。死を待つばかりのような状態の中、ある夜山犬と思われる獣が岩塩鉱を襲い、謎の病が発生、皆バタバタと死んでいきます。累々と亡骸が積み重なる岩塩鉱の中でたった二人、生き残ったヴァンと幼い子供は、岩塩鉱から抜け出しますが、この時生き残ったばかりに、いろいろな陰謀に巻き込まれていきます。

もう一人の主人公、250年前に滅びたオタワル王国の末裔であり、天才的な医術師のホッサルは、250年前に自国を滅ぼした黒狼病にそっくりな症状で全滅した岩塩鉱の調査に乗り出します。病の調査と、治療法の確立を急ぐ中、生き残った奴隷がいることに気がつき、病の解明のために奴隷の行方を追います。

二人の主人公たちの物語が交錯しながら、様々な立場の人々の思惑、陰謀が少しずつ明らかになっていきます。果たして黒狼病とはなんなのか、病とは?人間が生きるとは?国のあり方とは?。様々な問題にぶつかりながら、二人は答えを求めていきます。

丹念に描かれる世界。国と人間、征服者と征服された者達。決してヒーローではない主人公達

上橋さんが紡ぐ物語には、常に国や組織といった大きな存在と、その中で翻弄される人間、征服者と征服された者達のそれぞれの立場からの声といったものが描かれています。

今回も、東平瑠(ツオル)帝国という大国に征服されたアカファ王国、その中で驚異的な技術力で特殊な立場を貫くオタワル人、特に迫害を受けた辺境の地方の民族、無理やり移民させられた東平瑠(ツオル)帝国の民、それぞれの立場のそれぞれの思いが丹念に描かれています。

そして国全体としての舵取り、個人としての感情、そういった相反するような現実も誤魔化さずに描かれている。

何と言っても、上橋さんの物語に出てくる主人公達は、決して超越した能力を持ったヒーローではないんです。みんな人間で、自分ではどうしようもない運命に翻弄されながら、歯を食いしばって生きています。その中で身につけた素晴らしい能力や判断力、思慮深い人間性を持っていますが、よくあるアニメのような勧善懲悪ではなく、常に悩み、迷いながら、でも自分なりの信念に基づいて行動を決めていくんです。

生と死が直接絡む重いテーマもありますが、そこをあやふやにせずしっかり考えてくれるところが、上橋さんの描く主人公達の一番魅力的なところだと私は思っています。長い長い、独白のようなシーンもあり、読み手が主人公達の気持ちをしっかり理解できるように書かれています。

今回の主人公、欠け角のヴァンも、天才医師ホッサルも、それぞれが接する人たちのそれぞれの立場の善と悪の狭間で悩むのですが、自分の信じるところに向かって一歩一歩進んでいくような所が、本当に素敵でした。

その他にも、密偵として働くサエ、ホッサルの助手であり恋人のミラルなど、魅力的な人物が登場します。

戦争、争い、病といった狂気の中で、いかに正気を保っていくか、主人公達を見ているとそのことの難しさを感じざるを得ません。

人間としての全てが詰まっている物語

ですので、もうこの本に限らずですが、上橋さんの物語には、人間としての大切な全てのことが詰まっているといっても過言ではないと思います(あくまで私の感想ですが(≧∀≦))

人間の汚さ、卑怯さ、清らかさ、優しさ、残酷さ、強さ、弱さ、矮小さ、大きさ、裏切り、愛 どう生きていくかという正解はなく、自分で決めていかなければいけないこと、そして自己責任で行っていくこと。

もうね、人間の教科書といっていいと思います。ほんと。

そんなファンタジー大河ドラマのような世界観の中のしっかりとした医療の知識と医療哲学

鹿の王は、医療ミステリーといった側面もあるんです。黒狼病の原因と治療法の確立を図る中で、少しずつ手がかりを得て、病の原因を推測していくのですが、これが見事に現在の医療の説明になっている。

この物語、2015年の本屋大賞を受賞したのは有名なのですが、実は同年日本医師会が主催する日本医療小説大賞(現在は休止)も受賞してますもんね(ファンタジーで、医療小説大賞って、すごいですよね)

しかも、まだ医療が現在ほど発達していない世界での話なので、専門用語は使わず、常にわかりやすい例え話で語られていきます。

読んだ後には、免疫の機能や、人間の体の中での様々な菌や小さな生物との共生といった知識やメカニズムが自然としっかり頭に入ってます。

主人公のヴァンに起こる一見ファンタジーな変化に関しても、医療的に説明を試みていて、ちょっと感心してしまいました(^。^)

西洋医学と、東洋医学+宗教家のような医学の対立もあったり…。いろいろな意味で楽しめ、かつ考えさせられます。

何より医療には限界もあるし、わからないことも多い、病は変化する、きっといつまでたっても全ては明らかにならないというある種の諦観と、でもそんな中でも少しずつ手がかりを探して壮大なパズルを解いていく、といった医療者としての信念。そういった決して綺麗事だけではない現実に落としてくる所にとても共感しました。

そしてやっぱり食べるシーンが美味しそうで…

そして上橋菜穂子さんといったら、食事のシーン。今回も美味しそうな食事の場面がたくさん出てきます。食べることは生きること。食べることと、食べ物に対する礼賛。そして生活のごくごく当たり前の風景としての食事のシーンの丁寧な描写。

例えば

やがて話が途切れはじめた頃、うまそうな匂いが漂ってきた。

小さめの塊に切り分けて串に刺し、炉の火をぐるりと囲むように灰に突き刺してある猪肉の串焼きから、ぽた、ぽたと脂が滴って、じゅうっと香ばしい匂いが立ち上がってくる。

灰に油が落ちて、ぱっと小さな明るい火が立つたびに、ユナは手を叩いて、きゃ、きゃ、と笑った。

〜中略〜

猪肉はよく煮えていて、口に入れると、噛むまでもなく、ほろりとくずれ、濃厚な旨味が舌にひろがった。

季耶が作る猪鍋はとても美味いのだが、食べ慣れている鍋の味とはどこか違った。

多分山葱(オギ)が入っていないからなのだろう。

妻はいつも、猪鍋には山葱を入れていた。山葱は生のまま、ピリッとした辛味を味わうのもいいが、猪鍋に入れて、コトコト煮込むと、やわらかく脂を吸って甘くなる。その甘みと香りと、かすかな辛味が懐かしかった。

それに、小麦粉を練って香ばしく焼いたパウ(パン)。残った汁にパウと浸して食べる、あの旨さ……。

もう、食べたい(≧∀≦) 猪肉を持ってこいー!

この物語に限らず、上橋さんの物語全体に共通する魅力です!ほんと美味しそうなんだから。

余談ですが

犬(半分狼なんですが)と同化するようなシーンがあるのですが、この時の犬の気持ち?といいますか、犬からみた世界のような描写が、すごいです。そうかも、自分が動物になったら、こんな感じなのかも、と追体験できるような、素晴らしい描写になっています。

間違いなく、読みながら私は犬になってました。この辺りも見所(読みどころ?)

まとめます

本当に、物語としてとても面白く、一気に…いや、文庫でいう1巻目は色々と頭に入れながらなので一気には読めないのですが、2巻目3巻目とどんどんページをめくる手が早くなっていきます。

そうでありながら人間のあり方というものを、押し付けがましくなくしっかり考えさせられる本です。医療についても、いろいろな角度から考えるいいきっかけになります。

読み終わるのが嫌だった〜。

もう、私の理想の女性は守り人シリーズのバルサ姉さんですが、理想の男性は欠け角のヴァンに決定です。強く、でも一方で弱い側面もあり、だからこそ優しく大きく、ユナちゃんとすごす姿がめちゃくちゃ素敵。続編の水底の橋、絶対読む!

好きすぎて、冷静さに欠けるレビューで申し訳ないですが、いいんだもん(笑)読んだことがない方には全力でおすすめします。

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