今年は人類初の月面着陸からちょうど50年ということで、アポロ11号がよく話題に上がります。
少し前に、科学館のプラネタリウムでドームシネマとしてアポロ11号の映画を上映しており、それを見て、改めて不可能に挑戦する人間の可能性に感動したのです。
が、この映画を見ると、そんな華々しい成功までの、綺麗事ではない真実が見えてきます。
この映画のタイトルは、ファースト・マン。
この映画は、決してアポロ計画の記録ではない。たまたま、アポロ11号の船長に任命されたニール・アームストロングさん個人の記録です。
子供、家庭、否定的な世論、様々なことを抱えながら、ごまかさず、感情を表に出さず、すべて背負って黙々と自分のやるべきことを貫いた、アームストロング船長を心から尊敬しました。
ドキュメンタリーのように作っている映画ですが、アームストロング船長の人柄のように淡々と話が進みます、でもそこには深い深い感動が広がります。
すごく、いい映画でした。
では、いってみよ
もくじ
感想19 ファースト・マン ネタバレあります
もう、皆さん知っている偉業の映画ですので、思いっきり語ろうと思います。以下、ネタバレていますので、ご注意くださいね(≧∀≦)
STORY
公式サイトのSTORYが長いので、ここではざっくりと説明します。
1961年空軍でテストパイロットをしているニール・アームストロングには、重い病を患う幼い娘(カレン)がいた。懸命な看病を行うも、願い叶わずカレンは逝ってしまう。以前から声をかけられてはいたものの、娘の病状を理由に断っていたニールは、NASAの宇宙飛行士に応募する。
1962年、ヒューストンに引っ越し、それから訓練づけの日々が始まる。友人の宇宙飛行士が命を落としたり、自身もトラブルに遭遇しながらも、黙々と訓練を続けるニール・アームストロング。
世間では、莫大な税金を使いながらも、犠牲者を出すアポロ計画に対して、批判的な意見が相次ぐようになる。
そんな中、1969年、月に着陸するアポロ11号の船長に任命される。出発の日、時間を潰すかのように準備を続けるニールに、妻はちゃんと息子達と話すように伝える。長男は「戻ってこれる?」と問い、それに対して冷静に答えるニール。そしてついに旅立ちの日を迎える(参考:映画『ファースト・マン』公式サイト)
ニール・アームストロングの視点で淡々と描かれる
リサーチと構想に膨大な歳月が注ぎ込まれたというこの映画、ドキュメンタリータッチで、常にニール・アームストロングの視点で話が進行します。
これが、本当に寡黙で冷静で、何があっても理性的に収めていきます。
実際のアームストロング船長も、普段感情を表に出さない、あまり自分から語らない方だったそうですね。
もう、こんな危険な仕事をしていたら、いろんなことがあるわぁ。想定外のことだらけやわぁ。
妻は不安で仕方がないし、仲間は事故で死に、自身もミッションのトラブルで死にかけて、世間の風当たりは強く、不躾なマスコミは失礼な質問を容赦なく浴びせる。
そんないろいろなことを、感情的にならず、すべて理性的に受け止めて、それを流さず、ごまかさず、黙って背負っていくんです。この方…。本当に、こんな人だから、こんな危険極まりないミッションの船長が勤まったんだろうと納得です。
トラブルや、打ち上げ時の映像がリアルすぎて、怖い
もうね、アームストロング船長の目線で描かれてるから、打ち上げの時もロケットの中の映像なんです。
私、少し前にアポロ11号のドームシネマを見ましたが、これは完全にヒューストン側から描かれたドキュメンタリー映画。打ち上げのシーンも当然、ロケットの外からの映像で、それはそれでとても感動したんです。なんというか、不可能を可能にしていく、人類の凄さというか、あんなすごいエネルギーを生み出して、大気圏を突き抜けて宇宙へ向かう。ちょっと前の人類ではあり得ないこの偉業。
でもこうやって、人類は未知の世界に挑戦し、行動の範囲を広げてきたんだなぁ…なんて、感動にひたっていたんですよ!
が、これが打ち上げられる側の視点で描くと、狭いコックピット、体にかかるG、ものすごい揺れと音、小さな窓からしか見えない景色。死と隣り合わせの空間がすごい臨場感を持って迫ってきました。
怖いよ〜〜こんなミッション、嫌だ〜〜。
でもね、さすが訓練を積んだ宇宙飛行士たちは冷静なのよ。すごい人たちです。やっぱり選ばれた人たちだわ。
アームストロング船長が、ジェミニ計画のミッションの時に見舞われたトラブルの時がもっと怖い。宇宙でドッキングを果たしたあと、宇宙船がものすごい勢いで回転してしまうのですが、その時のあの音。もう死の音にしか聞こえない。見ながら泣きそうでしたよ。私。
それでもなんとか冷静さを保ち操作を行うこの人は、やっぱりすごい人です。
感情を出さないニール・アームストロングが、唯一感情を出した時
冒頭で、一生懸命に重い病にかかっている娘を看病するのですが、それも虚しく、病魔は娘をあの世へ連れ去ってしまいます。そんな時でも人前では(妻の前でも)泣かなかったのに、1人になった時に感情が溢れるようにむせび泣くんです。
この映画で唯一、感情が現れたシーンです。
1回見終わって、どんな時にも絶対に感情を出さないニールアームストロングという人を理解した上で、最初のそのシーンを見ると、もうこっちも涙が。この人にとって、娘さんの死って、よっぽどのことだったんですよ。
この子の形見がクライマックスで登場します。
月でのシーンの謎
有名な「1人の人間にとっては小さな1歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」のセリフの後、映画では月面を歩き、その後クレーターのようなところに向かいます。そして手には娘さんの形見(ブレスレットか何か)が。
しばしそれを見つめた後、クレータにその形見を放つのです。
なんで、月に形見を残したんだろう。
これが理解できなくて、色々と調べてみたんですが、結局はっきりとはわかりません。
アームストロング船長は本当に寡黙な方だったので月でのことも多くは語らず、謎の部分も多いようですね。でも、何かしら娘さんの形見を持って行ったのではないか、という説が有力なようです。
つまり、このシーンは事実かどうかはっきりとはわかっていないシーン。
私だったら、娘の形見は自分で大切にとっておきたいけどなぁ、と思ったり。でも人類で初めて、月に降り立つ、という偉業を成し遂げる中、娘さんに月の風景を見せてあげたかったのかなぁ、と思ったり。
宇宙に神を感じて、少しでも神様に近い所に連れて行ってあげたかったのかも、と思ってみたり。
想像はつきませんが、最初に唯一感情をあらわにした、娘さんとの別れのシーン。それがあるからこそ、本当にこのシーンが奥深く、胸に染み入るシーンとなっています。
家族は本当に辛い
こんな危険なミッションに挑む旦那さんを持った妻と子供の苦労よ!
ミッションの中継を聴きながら、心配でヒューストンに押しかける妻の様子などが描かれますが、もう妻の命が縮むよね(・・;) 隣の家族の旦那さんが事故死したり。明日は我が身というか、ましてや、誰も行ったことがない未開の地、月に降り立つなんて、想定外のことが多すぎる。
そんな家族の苦悩なんて、アポロ計画のドキュメントには描かれないですもんね。
マスコミと政治家にイライラする
余談ですけど、映画の中で多額の税金を使い、犠牲者が出たりとうまく進まないアポロ計画への不満が噴出しています。
ラップで“俺たちは〇〇ドル税金を払っている 病院にも通えない 食べるものもない、白人が月に行くために(記憶を頼りに書いています。歌詞はこの通りではありません)”みたいな歌が流行っていたり、こんなことに税金を使うより、もっと他の政策に回した方がいい、といった意見がテレビで流れていたり。
そんな中、マスコミが不躾にアポロ計画に対しての質問をします。いや、それはいいんですよ。いろいろな意見はあるでしょうよ。マスコミの奴らもなんだこいつって感じの言い方をしますけど、まぁ、そこはいいですよ。100歩譲って。
その後、人類初の月面着陸が成功した途端、ころっと、ころ〜〜〜っと、手のひらを返したように英雄扱い。偉大なアメリカ扱い。
なに、この節操のない扱い。
わからないことはないけどさ。きっと本当に月に人が行けるとは思ってなかっただろうし。
でも、でも、全然信用できないと思いました。もうね、ニュースでもなんでも、鵜呑みにはしないのが大事。マスコミなんて、視聴率が取れればいいんだし、正しい公平な視点でニュースを流しているとは思わない。正しい視点で報道できる実力のある人も、そんなにいるとは思えない。
今はインターネットやSNSがあるから、世論がマスコミ1択ではなくなって、その意味ではいいですね。今は自分の感覚を研ぎ澄まして、自分で判断していかないといけないですね。
そして、そもそも、政治的に始まったこの計画、映画の中で政治家もアポロ計画を批判してますが、もうそこにも頭にきて!
この人たちだって、好きでやっとんじゃないんじゃー!10年で月に行けとか、大統領が無茶振りしたから、仕方なく道なき道を切り開いてるんじゃー!命をかけて、頑張っとんじゃー!
もう、怒り心頭でした。
なんか、余談が長くなっちゃいましたけど、そのくらいものすごく頭にきたんです。失礼いたしました。
キャスト 他
- ニール・アームストロング:ライアン・ゴズリング
- ジャネット・アームストロング:クレア・フォイ
- エド・ホワイト:ジェイソン・クラーク
- ディーク・スレイトン:カイル・チャンドラー
- バズ・オルドリン:コリー・ストール
- ボブ・ギルルース:キアラン・ハインズ
- エリオット・シー:パトリック・フュジット
- マイク・コリンズ:ルーカス・ハース
- 監督・製作:デイミアン・チャゼル
- 脚本・製作総指揮:ジョシュ・シンガー
- 原作:ジェイムズ・R・ハンセン
まとめ
ともすれば、人類の偉業を成し遂げた英雄としての側面しか描かれないアームストロング船長。ニールアームストロングという1人の人間の視点から、アポロ計画を描くことで、偉業の裏の、きれいごとだけではない様々な側面が描かれていました。
本当にニールアームストロングという人は、すごい人(そして好き勝手にもの言うマスコミと政治家に頭にくること!)
より、この計画を理解することができたし、それを超えてなお、月に降り立ったこの計画を尊敬したい。
ドキュメンタリータッチでありながら、映画にどんどん引き込まれていきました。
この映画、見てよかったです。
こちらは原作♪