もう、今読み終わって感動の中にいます。読み終わった今も、ロシュナールの歌(トゥガ)が耳に残っているような気がします。
上橋さんの原点がギューっと詰まったデビュー作。これを大学生の頃に書いたというから、上橋さんの才能に驚嘆するほかありません。
もくじ
感想25 精霊の木
STORY
ストーリーは、一言で言うと、SFファンタジー。
舞台は環境破壊により地球に住めなくなり、人類が宇宙に出てから400年後のナイラ星。突然不思議な光が“橋の岩”に現れた頃、主人公のシンの従妹のリシアに、突然超能力が目覚めます。
地球人が移住する前からナイラ星に住んでいたロシュナール人の生活を、まるで追体験するように夢に見るようになったリシア。二人はすでに滅んでしまったロシュナールの真実を探るために、夢を手掛かりに橋の岩を目指しますが、歴史を闇に葬らんとする組織の捕獲者が二人に迫ります。
もう、読み始めると、一気に最後まで読みたくなります。
スピード感のある話の展開
ものすごく、スピード感のある話の展開。今の上橋さんだったら、もっと細かいディティールまで描くのでしょうけど、もう書きたいストーリーが早く世に出たがって仕方がないのを、一生懸命になだめて書いたような印象。
でもだからと言って、舞台の設定や主人公たちのキャラクターが不完全か、というと決してそうではなくて、十分に書き込まれていると思います。
時々、変に現在っぽい雰囲気があって、時代がわからなくなる時もあると言えばありますが(これって、何百年も先の話よね?みたいな)、でもそんなことは、圧倒的な世界観からしたらほとんど気になりません。
読んでいるこっちもワクワク、ドキドキ、ハラハラしながら、時にその話の設定にホォ〜〜と感心したり、そうだよね、いつも勝者はそうやって歴史を作ってしまう、としみじみと納得したり…
えぇ〜っ!!ひどい!なんてひどい、くっそぉ〜環境調整局め〜!と怒ったり、心優しい、素朴なロシュナールの優しい歌の調べにうるっときたり…
もう、もう、忙しかったです。どっぷりと、自分もナイラ星の世界の一員になってリシアとシンの大冒険を楽しめました。最近こんなに物語の世界に入り込んで本を読むことがなかった気がします。久しぶりのとっても幸せな時間でした(≧∀≦)
常に同じスタンスで描き続ける上橋さんの紡ぐ世界
ご自身が文化人類学者として、オーストラリアの原住民であるアボリジニの研究をされている上橋さん。常に昔からそこに住む素朴な人々と、その土地を奪う征服者たち、そして征服した立場から捻じ曲げられて伝えられる彼らの歴史、といったテーマが物語の根底に流れています。
そして、征服者は認めようとしないような、別の世界の存在。
それを、捻じ曲げられた方から描こうというのが上橋さんの物語の根幹だと思います。
上橋さんが、この本の初版あとがきに書いている言葉です
ヤッホーと槍をふりあげ、駅馬車をおそう「インディアン」を、正義の騎兵隊が退治する西部劇が、世界中の人びとにうえつけたイメージのなんと強力なこと!本当の歴史を知った人ならきっと、そんな映画をつくれる人の心に、言い知れぬ恐怖を感じるでしょう。
私はずっと、そういうふうに、事実とはちがう色あいに塗りこめられた歴史をあばく物語を書きたいと思っていました。異文化を理解しようとしない人びとに〈野蛮人〉とののしられてきた人たちに、大活躍をさせてあげたいとも思いつづけていました。
これをまだ学生の頃に書いた上橋さんの凄さを実感するとともに、今定説とされている歴史も、本当に紐解けばちがう側面が見えてくるのかも知れない、と改めて思う言葉です。
独特の上橋ワールド
上橋さんの物語は、地名や名前が独特で、それが一つの特徴あるファンタジー世界を作り出していると言えます。例えば、この物語の中にも、
- 精霊:リンガラー
- 精霊の道:リンガラー・カグ
- 時の夢見師:アガー・トゥー・ナール
- 歌:トゥガ
- 魂:トゥー
- 魂の目:トゥー・スガ
- 母の国:ロシュ・トゥト
- 緑香草族:タングラー・ロイ
- 赤い氏族:ナザ・ロイ
といった、失われた種族、ロシュナールの言葉がたくさん出てきます。これ、この後に続く、守り人シリーズ、獣の奏者などでも、同じように独特の言葉が出てきて、それが物語のちょっと不思議な世界観を形作っています。
読み慣れるまでは、若干ページを戻ったり進めたりしながら苦労するんですが、慣れるともうこの世界観がたまりません。
でもこの言葉、何か元になる言葉(どこかの種族の言葉とか?)があるんですかね?それとも完全にオリジナルなんですかね?いつかお会いできることがあればぜひ聞いてみたいです(≧∀≦)
まとめ
上橋さんの世界観が、ぎゅっと詰まったようなキラキラした1冊。物語にどっぷり入り込んで、ワクワクドキドキしたい人には、全力でオススメします。これを大学生で書いた上橋さん、やっぱり尊敬。
死ぬまでに1度でいいからお会いしたいです。ホント。
それにしても、映画もいいけど、やっぱり本が好き。でも本だとものすごく頑張っても2日に1冊ペースでしか読めないんだけどね^^; 読むのが早い人が羨ましい(≧∀≦)